Thursday, October 11, 2007

For Example vol.2



ロバート・ラウシェンバーグ Robert Rauschenberg
《Sor Aqua (Venetian) 》
1973
木材、鉄、ガラス製の水差し、水の入った浴槽
248.9×304.8×104.1cm

[実験の目的]
数量的な量(かさ)と、感覚器官によって受容された重量感/無重力感とは異なる。この二つの違いを明らかにする。

[実験の仮説]
〈重さ〉は物体に帰属するのだろうか。物体を分割/変形しても、一部分を取り去ることがなければ重さは変わらない。この質量の保存性の前提は疑いえないものなのだろうか。
〈重さ〉は眼に見えないが、われわれは普段サイズと材質から物体の重さを、それに触れることなく割り出してもいる。あるいは、建造物を見て「倒れそう」と感じたり、どのように支えられているのかと訝ることもあるだろう。こうした〈重さ〉、重量感とは、あくまでも物体と受容する側との関係性においてのみ発生すると言える。だとすれば、重量の感覚を物体から切り離し、別の物体へ結びつける(ないしは置き換える)ことも可能なのではないだろうか。

[実験の方法]
重い物体をピアノ線などでつるすことで、浮いているように見せる簡易な方法がある。しかしそれでは浮遊感は得られない(トリックがわかれば失効する)。浮遊感は実体化した感覚を切断することで獲得される。従って「つり下げる」という構造は隠すべきではなく、むしろそれが露呈しているにもかかわらず、浮いているように見える(重さがあるのに重さを感じない)という、物理的な構造と感覚が矛盾した状態を作らねばならない。ここに複数の異なる物体を〈コンバイン〉する際の秘訣がある。
 1. 鉄を太い角材に巻き付け、重量感のある物体を作り、強度のある荒縄で落ちないよう、天井からつり下げる。
 2. 浴槽に入った水に水差しを浮かべ、重量感が軽減されている状態を作る。
 3. 1の物体と、2の浮遊した水差しを紐でつなげる。この際、紐は水差しの重さによって引っ張られないようにする。安定してぶら下がっている1の物体が浮遊しているように見えるまで、紐のたるみを調整する。
*注意事項
 A. 1の物体をつり下げる荒縄は設置する空間の色と近いものとし、物体との接合は支えていることが明確にわかるようにする。
 B. 1と2をつなげる紐はつり下げられた鉄に近い色を選び、視覚的に強調する。
 C. 水に付与された浮遊感を強調するために、水差しは透明なものを選ぶ。
 D. 1の物体と2の浴槽の色彩構成をそれぞれ上部が白系/下部を黒系とし、二つが反復するようにする。

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For Example vol.1


ローリー・アンダーソン Laurie Anderson
《制度の中の夢/Institutional Dream Series》
1972-73
写真、テキスト

[実験の目的]
〈公共空間〉とは何かを捉え直す。

[実験の仮説]
法に触れてはいないが(社会的には)奨励されていない行為によって、公私を区分する境界を探る。
たとえば、眠って夢を見ることは、一般的には私的な行為だとされている。しかし、その行為はむしろ極めて無防備な、自分自身では統整できないような状態にあるとも言える。
無防備のまま公共空間へ投げ出された人間を、周辺の人間はどのように扱うのだろうか。彼らは、日常的に適用している社会規範を用いることが困難となり、別の基準を設定せざるをえない。眠った人間への反応は、既成の社会規範を切り離し、いわば〈純粋公共空間〉を抽出することになるのではないか。このように考えれば、夢もまた〈公共空間〉のような〈場〉として捉えることも可能なはずである。
類似した実験として、ヴィト・アコンチ Vito Acconciの1969〜73年頃の諸作品を参照のこと。

[実験の方法]
公衆トイレ、公園のベンチ、公立図書館といった様々な公共の場所で眠り、自分の夢に各々の場所の影響が現われるかどうかを試す。できるだけ疲れきった状態で行き、すぐに眠りに入れるように心がける。また、無防備な状態の人間に、周囲の人間はどのような反応を示すのかについても記録をとり、観察すること。

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