Sunday, April 13, 2008

運動器官の可塑性|カッツ[引用]

もし、甲虫の本来の六本脚の中から一つあるいはそれ以上が切断されると、甲虫は残りの脚でもって歩み進むであろう。しかもその運動はいまや、まったく新しいやり方で相互に結合されなければならない。極端な場合において、すべての脚を取り去ると、顎まで前進運動のために活動させるようになる。しかしながら、これらの器官はけっして以前にこのような機能を持ってはいなかったし、おそらくまた甲虫類の全系統発生史においてもけっしてそんなことはなかったのである。

脊椎動物の四肢切断実験も似たような結果を提出する。犬の両方の後肢を切断すると、犬は手術の傷が治癒するや否や運動をはじめる。そのやり方は、二本の前肢の間に後身を突っ込んで移動するか、あるいは後身を高くあげて、二本の前肢で歩くようにする。前肢を切断すると、カンガルーのように二つの後肢で運動する。このような現象は、人が“試行錯誤”の原理と呼んでいる骨の折れる学習を行なうことなしに起こるのである。

私は、自分で一匹の犬を長い間観察する機会をもったことがある。その犬は同じ側(左側)の前後の肢を災難で失った後、あとに残った二本の肢でまことに巧みな方法で運動したのであった。モルモットの四肢を切断すると、軀幹(胴)を軸として転がるようなふうに運動しようと試みる。

上記の例のすべてにおいて、運動器官の驚くべき可塑性が明らかにあらわれている。求心的ならびに遠心的神経繊維をもっている同一の運動中枢はすべての場合に対して一つの恒常機能をもっているという古い学説をわれわれは放棄しなければならない。(中略)末梢で何が生じるべきであるかを中枢器官が決定するのではなくて、いかに中枢器官が調整したらよいかを末梢が決定するのである。(中略)末梢自体が中枢器官のうちに一時的な中枢を作り出す。その一時的な中枢は、あるときは比較的徐々にできあがるものもあるし、また四肢切断の場合のように、突然に形成されるものもある。

 ▶ダヴィット・カッツ『ゲシタルト心理学』(原著1942)